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COLUMN

いい会社づくり通信

Aさんがトップセールスでいる理由

2021.11.04岡村 衡一郎

 Aさん(45 歳)は、建築業界で営業を担当している。
今回は彼が、なぜ高成績を維持できているのか。
Aさん流の営業の本質について触れていきたいと思う。
なぜなら、あらゆる業種で応用展開できるメソッドだと感じたからだ。

 私は Aさんと数年のつきあいになる。
先月、戦略会議に参加させていただいて、私は彼のすごさに改めて気づかされた。
会議では「Aさんは支持されているのか」について、一緒に掘り下げていった。
売れる本当の理由を掘り起していく過程で、彼が言わない言葉をひとつ決めている明らかになった。
その言葉は、多くの営業マンが使っているだろう「はい。分かりました」のフレーズだ。

 彼の仕事は、相手の欲しいものを建築物に集約して形にしていくことである。
お客さまは自分が欲しいものがはっきりとわかっていることは少ない。
何回も購入する日用品のようなものではないから、自分が欲しいものをすべて言葉で伝えることは難しい。
加えて、要望が形になったのかは最終商品を見てはじめて分かる。

 このような難しさがあるのが建築業界の特徴であるが、どの商品・サービスでも、背景にあるものを 100%知っているお客さまはいないのだから、多くの企業に、多くの営業にあてはまるものだろう。

 Aさんのメソッドを具体的にみてみよう。
Aさんは。相手がしたいことと聞きながら、相手の話をどう理解したのかを「こう理解しました」と具体的に返していく。
そしてプロとしての提案を、その場、その場でていねいに重ねていく。
打合せのゴールはラフスケッチの完成にある。
持ち帰りの宿題の最小化に主眼を置いている。

 一見ていねいな対応に思えるが、「はい、分かりました」では、何がどう分かったのかは、相手には分からない。
建築のプロに頼んでいるのだから「はい、分かりました」という言葉では、相手は「細部まで伝わっている」という感覚で商談は進んでいく。
ずれを確認しないままに提案が出されてしまえば、当り前だがずれていく。

 Aさんとの商談は、その場でラフスケッチが描けるのだから、安心感が違うし、後日出される提案書は、本当の意味での提案になってくる。

 本当の意味での提案の逆にあるのは、提案営業とは名ばかりのソリューション紹介である。
「はい、分かりました」で終わらないやり取りが、むしろ相手のイメージの具体化につながり、お客さまもだんだんと欲しいものが分かっていくから、Aさんとの打ち合わせは心地よい。

 会社がもっているソリューションの羅列に留まる提案書は結構ある。
1ページ目にヒアリングした項目が言葉通りには書かれている。
しかし 2 ページ目以降に、1 ページを受けた内容、提案がほとんどない提案書だ。

 Aさんが率いるユニットが出す提案はすべて、相手になりきって、プロだからできることが書いてある。
本当の意味での提案書である。
作成できるのは、「はい、わかりました」が NGワードになっているからと、その場でできる提案は、その場で終えていくのをルールにしているからだ。
これらのルールのもとに、再度、持っていく提案は、それ以上のものにしなければ出せないという制約を自分たちに課している。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 216」2021.4.2】