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COLUMN

いい会社づくり通信

2021年 自己主張の年に⑵

2021.10.06岡村 衡一郎

「タンスに眠っているお着物をコートに変えて目覚めさせます」。
このメッセージは、和服を仕立てる事業を営む広島県の勝矢和裁さんのものだ。
WAcycle(ワサイクル)のメイン商品「和のコート」はエンドユーザーの眠った着物をコートに仕立て直す、エンドユーザーから直に受注するための試みである。
勝矢さんにとって、はじめての市場に対する自己主張だ。

 勝矢さんの事業は、いわゆる BtoB、自分たちでエンドユーザーから直に受注することはない。
自社のロゴがつかない着物を影で支える存在なのだ。
日本トップクラスの和裁師を育成して、連合体で仕事をしながら、伝統の技術を継承している歴史を持つ。
呉服店からの依頼に対して、最高の技術をもって、着物を仕立てる、技能を大切に守りつないでいる会社である。

 中国新聞に取り上げられた「和のコート」の記事がある。
コロナの影響で既存ルートの売り上げが下がってきたからというのもあるが、自社のロゴがついた商品は、皆さんの長年の悲願でもあった。
BtoB で長年事業を営んできた会社が、エンドユーザーに直接打って出る BtoC の取り組みを立ち上げていくのは、簡単なように思えるかもしれないが、簡単ではない。

 皆さんが開催した「着物文化祭」の一シーンを撮った写真。
パリコレをイメージして、30 種類のコートの特徴、デザインを一枚一枚、説明している場面だ。
商品企画、イベント企画、集客、販売の流れを、着物を縫うのが専門の和裁師さんが行なった。
商品開発のためにデパートをまわり、集客は友人知人、SNS、看板、チラシなどをフルに使って総力戦で行なった。

 イベントコートの存在を知り、和のコートを注文したお客さまからは、次のようなお手紙が届く。
「依頼しました袖なしの棒衿を受け取りました。細部までていねいに仕上げていただいて、また衿の幅や丈なども理想的で、本当に感激しています。
これまでどこに頼んでよいか分からなかった規格外のお願いが、かなってしまったことも夢のようでした。ありがとうございました (o^-^o)」。

 WAcycle は、まだ売り上げの一部である。
しかし、これからの勝矢和裁さんの未来を切り拓く可能性をもった取り組みと言えるだろう。
職人さんが商人の勉強。
市場の勉強をして訴求したメッセージ、「タンスに眠っているお着物をコートに変えて目覚めさせます」に、呼応したお客さまから届いた手紙は、和裁師さんの活力の源となっている。
お客さまを肌で感じる職人集団は強くなっていくからだ。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 207」2021.1.29】