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COLUMN

いい会社づくり通信

最使用価値をあぶりだし、突き詰める

2018.02.13岡村 衡一郎

 その昔、ホンダが開発した「プレリュード」が大ヒットした。
開発コンセプトであった「ナンパに使える」の勝利だ。
若い男性が車に求めるものは何か。
開発者が三日三晩とことん話し合あってあぶりだした使用価値は、女性との出会いの演出できる道具であった。
ど真ん中の利用シーンをかなえるべく、機能やデザインを突き詰めた仕事の結晶としての「プレリュード」は、当時の若年男性から圧倒的な支持の獲得に至る。

 売れ続けている商品・サービスの背後には必ずと言っていいほど、使用価値をつきつめるための対話がある。
花王の洗濯用洗剤「アタック」のキャッチコピー「スプーン一杯でおどろきの白さ」も好事例として語られる。
あぶりだした開発の中心思想が顧客ベネフィットそのものだから売れたのだ。
煮詰めていく対話の過程は、「おどろく」ではだめ「おどろきの」でないとだめだ。
価値の言葉化に細部にまで妥協しないやりとりがあった。

 自分たちが売っている商品・サービスが、最も相手の欲求を満たすポイントはどこにあるだろうか。
的確にとらえた最適な使用価値があれば、商品開発や改良の成功確率を上げることができる。
しかし価値を改めて掘り下げる行為は多くの企業では、それほどなされないように思う。
自社の商品・サービスが売れている事実は、当たり前にある空気のように惰性的販売になっていない会社すらある。

 車の改良が、かけた努力ほど効果を生まない理由もそこにある。
例えば“かわいさ”を家族で使えないからと捨てる。
“軽やかな走り”をパワー不足とすえ大型化する。
真ん中をとらえた「プレリュード」のような例の方が少ない。
商品・サービス革新の起点は「相手のどのような欲求を満たすのか」の設定にある。
中心を外した取り組みは、枝葉の改良ができても欠点是正の範囲を超えない。

 中心をとらえるのは簡単ではないが真ん中に近づくアクションは取れる。
改良策を出す前に○○とは何か、△△にとっての○○は何なのか、△△に想定客層を○○に自社商品を入れた意義の問い直しと答えの吟味を腹落ちするまで繰り返す。
誰にでも分かる欠点を評論家的に上げるのではなく、内在的批判で答えに迫る対話のプロセスが重要になる。
「ナンパに使える」も「スプーン一杯でおどろきの白さ」も短時間でたどり着けるものではないからだ。

 ホンダの近年のヒットS660(軽自動車オープンカー)にも若年男子のワクワク感を集約したものづくり、最使
用価値のあぶりだしが継承されているから生み出せた自動車だ。
花王の「アタック」は、昔も今も洗剤に求める汚れが落ちを突き詰め、かつ持ち運びが楽な形態への探求を止めない。
ベストセラーの洗剤であり続ける「アタック」はペットボトルほどの大きさの液体へ、すすぎ回数1回の時短へ、価値の深化を続けている。

 自分たちの商品・サービスの最使用価値は何か。
商品・サービスのイノベーションは、この問いのもと、お客の欲求に照らして考える。
本当にそうかと繰り返し吟味を通じた腹落ちする答えをみつける内在的な批判に支えられる。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手 022」2016.11.18】